王様ホール

考えたことや感じたことや起こったことを書きます。

きのこのみぞれ汁

実家に住んでいた頃、たまに母が作ってくれるきのこのみぞれ汁が好きだった。
きのこは多分、ひらたけかしめじ。それを味噌汁にして、仕上げに大根おろしを入れて少し煮れば完成。
 
私は普段大根おろしがあまり好きじゃないのに、きのこと一緒に味噌汁と合わせることによって美味しく食べられた。
また、大根おろしの効果できのこ独特のクセが消えて、汁全体の調和が取れていた。
きのこのみぞれ汁はいつしか、母の家庭料理として記憶に残るものになっていた。
 
結婚してから、スーパーでぶなしめじを買い、自分でみぞれ汁を作るようになった。夫は大変美味しいと絶賛してくれた。
しかしそれは、母が作ってくれたみぞれ汁とは違うものだった。きのこはぶなしめじではなかった。もっと頭が平らなやつだった。
ひらたけはどうかと思って、近年登場した「霧降りひらたけ」でチャレンジしてみた。近づいた気はするが、まだ何か違う。
 
母に会った際、「子どもの頃、お母さんがたまに作ってくれたきのこのみぞれ汁が大好きだったんだよ」と告白してみた。
そしたら、母はピンときていなかった。「そんなの作ってたっけ?」などと言っていた。
私が繰り返し説明すると、「ああー」という感じで、「あれは知り合いが山から採ってきたきのこで、そのままだとクセが強いから仕方なく大根おろしと一緒に味噌汁にしてたんだよ」だそうだ。
どうりで、スーパーで買ったきのこでは再現できない味だ。作った本人も何のきのこかわからなかったんだから、私に教えようもない。
 
でも、母が作ったきのこのみぞれ汁は、その美味しさで私に確かな印象を残した。
母の意思とは無関係に「おふくろの味」になってしまった、きのこのみぞれ汁のおはなしでした。


※タグ「ヤッセイ」……以前あった「ShortNote」というエッセイ投稿サービスにて期間限定で開催されていた、野菜に関するエッセイコンテストのために書いたもの。