王様ホール

考えたことや感じたことや起こったことを書きます。

音のない世界

皆さんは、全く音のしない空間を体験したことはあるだろうか。
 
防音室がそうかもしれない。
が、そうでない自然な状態で、完全に無音になる環境はかなり珍しいのではないだろうか。
例えば、家で静かにしていても、エアコンや冷蔵庫の音、外を走る車の音など、何かしら音がする。
田舎で人気のない屋外に行ったとしても、風の音や木の葉の擦れる音、鳥や虫の声、色々な音がする。
 
私はたった一度だけ、屋外で、完全な無音状態を体験したことがある。
 
中3のとき、卒業式の後の春休み、1日だけの登校日。田舎町にて。
 
私は一人で、家を出て学校に向かった。
その日に限って、朝からたくさん雪が降っていた。北海道では、3~4月の春休みは、まだ冬なのである。
道路にも既に5cmか10cmくらい雪が積もっているのに、ぼた雪がどんどんどんどん降ってくる。3月はさすがに気温が高いので、粉雪ではなく、ぼた雪が降る。
その日は風がなかった。どんどんどんどん、どんどんどんどん、ぼた雪がまっすぐに降ってきた。
辺りには、人も車も全くいなかった。

やけに静かだなと思って、私は足を止めた。
私が足を止めると、私の足音が聞こえなくなった。足音が止むと、他には全く音がしなかった。
遠くで車が走っていたとしても、降る雪と積もった雪に吸収されて、音は私のところまで届かなかっただろう。

私はしばらく、無音の状態をじっくり味わった。これが非常に珍しい体験であることは、中3の私にもわかった。だって、それまでの15年くらいの間に、こんなことは一度もなかったんだから。

足を止めて無音を味わっていたのは、せいぜい1分くらいの間だったと思う。
学校に行かなきゃいけなかったし、すぐ溶けるぼた雪で濡れたくなかったから。私は学校に向かってすぐに歩き出した。その間も、自分の足音、雪を踏みしめる音以外の音が全く聞こえない、準無音状態を楽しんだ。
 
たったこれだけの体験なんだけど、私の脳内思い出ライブラリのわりと上位にあって、こうしてふと思い出す。
 
いや、息子が熱を出したから今日は仕事を休んだんだけど、息子が寝ちゃった家の中がいくら静かだと言えど、あの日の無音と比べたら、ほんとに色んな音が聞こえるということに気がついたんです。
 
できればもう一度体験してみたいな。完全な無音。