王様ホール

考えたことや感じたことや起こったことを書きます。

(実験)創作文章「熟年離婚」

武雄は67歳、明子は65歳。
結婚して以来共働きでやってきた。子どもたちは既に独立し、今は武雄と明子の2人で田舎の一戸建て住宅に住んでいる。
 
今年、明子は勤めていた会社を定年退職した。武雄は2年前に退職していた。
明子がずっと家にいるようになり、武雄は明子のアラが目につくようになった。正確には明子の定年以前から目についていたのだが、明子が出勤せず家にいるようになったことでより顕著になった。
 
明子は掃除が嫌いで掃除をしない。掃除は長年武雄の役目だった。しかし明子は料理や洗濯、子どもたちが大きくなるまでは育児をも一手に引き受けていたので、その役割分担には武雄も納得していた。

明子は人の話を聞かない。聞いた話もすぐ忘れて「そうだっけ?」と言う。
明子は何事にも大雑把だ。よく飲み物をこぼすし、よくうっかりして皿を割るし、物を壊す。物を大切にできないようだ。
明子は人の顔を覚えられない。テレビを観ていても、タレントの顔がよくわかっていないようだ。

そういったあれこれが、退職後一緒にいる武雄の勘に障るようになった。
 
武雄はついに離婚を切り出した。
 
明子は首をひねって少し考え、言った。
 
「別居だとするとさー、この戸建てにどちらかが住んで、どちらかは賃貸アパート暮らし?年金暮らしだから家賃もバカになんないね。それより、年金暮らしの老人じゃアパート貸してもらえないんじゃない?マンション買うにしてもどうなんだろう。そんなに金ないし。

 あと、私は掃除嫌いでぜんぜんやりたくないけど、あんたも料理とかめんどくさいでしょ?
 だったら、離婚には応じるけど、シェアハウスみたいな感じでさ。住宅ローン完済したこの家に2人で住んで、生活圏だけ完全に分けるのはどう?
 そんで掃除はあんたに頼む。その代わりご飯は作ってあげる。一人分も二人分も手間は変わんないからね。
 私掃除嫌いだから、やってもらう代わりに洗濯もしてやるよ。
 この条件でどう?

 あ、一緒にいたくない、顔も見たくないって言うんだったらさ、私はインドア派だからずっと家にいるし、あんたは庭いじりとか散歩でもしてたらいいんじゃない?」

武雄は考えた。 
 
そしてその条件を飲んだ。
 
こうして、離婚前と何ら変わらない二人の余生が始まったのである。
 
ちなみに子どもたちは両親が離婚したことを知らず、盆と正月には孫を連れて「実家」に帰って来る。