王様ホール

考えたことや感じたことや起こったことを書きます。

読書感想文 S・キング「異能機関」

はぁ~。
読書っていいね。

 

年末年始休暇の数日間、下の子が空手の合宿で不在だったので、めっっっっっっちゃくちゃ久しぶりに、集中して、読書ができました。

S・キング「異能機関」

厚めの単行本で上下巻構成。

上巻は初日に4時間ぶっ通しで読んだ。気持ち良かった。
こんなこと、連休の日、それも『奴』がいない日にしかできないよ!何回も言うけど、読書だけに何時間も集中できるなんて、随分久しぶりだったんだから~~!!

自分の「読書筋」みたいなもの(もちろん「筋肉」は比喩です)が衰えてなくて良かったです。

 

さて、S・キング「異能機関」について。

邦題、もうちょっと何とかならなかったのかね。
原題は「The Institute」。「研究所」という意味です。それが。「異能機関」なんて。なんかモッサリしてませんかね。
邦題がダサいというよりも、原題があっさりしすぎなのかな。
あの有名な「スタンド・バイ・ミー」の原題なんか「The Body」だし。直訳すると「体」、更に言うと「死体」。
キングじゃないけど「アナと雪の女王」なんか、原題「Frozen」だし。
日本人の、タイトルをつける人が、色々盛り込み過ぎなんだと思います。
そう考えると「研究所」では何も伝わらないだろうと思って付けられた「異能機関」、それほど悪くないタイトルなのかも……?


ストーリーは、超能力を持つ少年が謎の機関に誘拐されて、検査という名の虐待を受けながら利用/搾取されるというもの。いわばキングの王道路線です。50年の作家生活で、これまでにも何回かそういうお話を書いてます。
主人公の少年は天才的な頭脳を持ち、12歳にしてマサチューセッツ工科大学とあと一つ文学系の大学に合格してて、同時に通おうとしていました。そんな矢先に誘拐されてしまいます。
その機関の「研究所」には、数人の超能力少年少女が収容されています。主人公は仲間の少年少女と友情をはぐくみ、なんかします。

その様子を、訳者の白石朗さんは「IT」になぞらえていました。「IT」ってアレよ。風船持ったピエロが「ジョージィー」って言いながら出てくるアレ。「IT」もキングの代表作ですよ。
「IT」は、超能力というほどではないけど友情の絆で結ばれた少年少女/それから27年経った中年男女が怪異に立ち向かう話です。

私個人的には、「異能機関」にそんなに「IT」は感じなかった。
白石朗さんがそう感じたからって、本の帯に「ITみたい」って書いちゃっていいものだろうか?と思った。
いや、白石朗さん、キングの訳者の中では一番好きなんですよ。でもなあ。

誰がどう見ても似ていて帯にも書いてる「ファイアスターター」の他に、私が似ているキング作品を挙げるとすれば、短編「なにもかもが究極的」です。

「なにもかもが究極的」は、超能力を持った少年が謎の機関に働かされる話です。わぁ、「異能機関」とおんなじだー。
これ、長編に比べたらあんまし目立たないけど、私がすごく好きな作品です。キング作品にしては珍しくちょっとアホっぽい主人公は、キングの別の作品で異世界に連れて行かれて登場してるので、キングもこいつのこと好きなのかもね。

ネタバレを防ぐために詳しいことは言いませんが、「異能機関」「なにもかもが究極的」に共通していることは、バックに謎の巨大組織があって、その組織が世界のバランスを保つために独善的なことをしているってことです。そこまで共通してて、なんで「異能機関」の帯で言及されないんだろう。

「IT」「異能機関」は文春から刊行、「なにもかもが究極的」は新潮から刊行されているという大人の事情から……?と勘繰ってしまうな。
それ言ったら「ファイアスターター」も新潮なんだけど、これはマジで似てるから言及せざるを得なかったんだろう。
考えてみると、「ファイアスターター」のチャーリー1人の方が、「異能機関」の能力者全員を合わせたよりも強かったな。キング作品に登場する超能力者強さランキングとか、誰かやってないかな。

 

そして私ときたら、ぜんぜん感想を書いていないではないか。前にも同じことをやっちまった気がするけど。

「異能機関」…… 5点満点中3.5点。

キングの原点回帰。上巻を4時間ぶっ通しで一気読みするほど没頭できた。下巻も時間が許せばそうしていただろう。面白かった。
面白いんだが、やっぱり読んでる途中で「ファイアスターター」や「なにもかもが究極的」がチラついてきた。「バックにいるの、同じ組織かな」とか思った。「IT」はチラつかなかった。ここは白石朗さんと私の感性の違いだろう。
キングは50年も作家やってるので、どうしたって似たようなプロットは出てきてしまうだろう。そして私は30年もそのファンをやっているのだ。どうしたって比べてしまう。
面白いんだが、ちょっと色々うまく行きすぎじゃね?と思った。

上巻の初めはしばらく、主人公のルーク少年と後に出会う人物ティムのことを書いてるんだけど、ティムはその後なっっっかなか出てこない。ただしキングファンはそんなことには慣れっこである。分冊集「グリーンマイル」や中編集「アトランティスのこころ」で喰らった意地悪な肩透かしに比べたら、むしろどうってことない。
そのティムがルーク少年の言うことを信用する根拠がやや弱いような気がした。
あと、組織、色々愚か過ぎる。独善的な国家権力の愚かさとか、そういうのを描きたかったんかな。
人物描写は漏れなく魅力的。キング作品はいつも人物が活き活きしている。

やっぱり総合的には雑だなーと思ってしまった。一気読みできる面白さはあっただけに、話の運びに無理矢理感を感じてしまって残念だった。

あと個人的に、「鼻くそほじりマン」という表現に反応してしまった。うちの息子が幼稚園時代、鼻くそをほじって食べている同級生につけたあだ名と一字一句違わず完全一致しているのだ。「鼻くそほじりマン」。これはキングではなく白石朗さんのお手柄である。キングが敢えて多用する汚い言葉を、似ているニュアンスの自然な日本語に訳す、白石さんの手腕だ。

点数は3点にしたかったが、素晴らしい読書体験と「鼻くそほじりマン」の分、0.5点オマケした。ラ王の袋麺についてるベルマークぐらいの価値。

 

以上です。

同時に購入した、S・キングと息子O・キングの共著「眠れる美女たち」をじっくり読めるのは、いつになることだろうねえ……。
しかしキングさんちは奥さんも長男も次男も作家なの凄いな。長女だけ作家でないらしい。長年キングファンやってると、こういう知識も身に付くものです。