王様ホール

考えたことや感じたことや起こったことを書きます。

絶対音感持ちはつらいよ(マジでつらい)

突然ですが、私は絶対音感持ち民です。

単音~単旋律なら確実に聞いた音の音名を言えるし、楽器や声で同じ音程を再現したり楽譜を書いたりできます。
あと、聞いた曲が〇長調とか△短調とかもわかります。ジャズやロックの民ではないのでコードのことはよく知らないけど、知れば多分掴めます。
そのくらいのレベルです。絶対音感界隈ではそれほど高いレベルではないけれど、わかることはわかる。

ピアノも習っていました。


そんな私と同じ境遇の民が初めて吹奏楽に接したときは、多分、全員、凄い違和感があるはずです。

中学校に入学して、吹奏楽部が新入生歓迎でなんか演奏してくれる前に、「チューニング」と言って、全員が同じ音を出して音の高さを合わせていました。

「なんで『シ♭』で合わせてるの?なんで『ド』じゃないの???」

そう、ピアノ(と鍵盤ハーモニカとソプラノリコーダー)しかやったことない絶対音感持ち民は、あの音が『シ♭』にしか聞こえないのです。

その時は知りませんでした。『シ♭』がトランペットやクラリネット等にとって『ド』だなんて。
更に、『ミ♭』や『ファ』を『ド』と称する楽器もあるなんて。
楽器の種類によって『ド』の音がそれぞれ違うなんて。
それまでは、ピアノや鍵盤ハーモニカ等の『ド』の音が絶対不変の『ド』だと信じていたんです。その『ド』以外を知らなかったんです。

楽器の未経験者には、この説明でも何のことやらわからない人がいると思います。
が、わかってもらうしかありません。
トランペットの『ドレミファソラシド』は、ピアノを基準とすると『シ♭ドレミ♭ファソラシ♭』です。1音低いんです。
アルトサックスの『ドレミファソラシド』は、ピアノを基準とすると『ミ♭ファソラ♭シ♭ドレミ♭』って聞こえます。
ホルンの『ドレミファソラシド』は、ピアノを基準とすると『ファソラシ♭ドレミファ』です。

図で表すとこう。

なんでそれぞれ違うんでしょうね。管の長さとか調整して、ピアノと同じ『ド』に合わせたらいいのに。
何か理由があるんでしょうか。楽器作った昔の人がいい加減だったんでしょうか。

ほんで、ピアノの『ドレミファソラシド』と各楽器の『ドレミファソラシド』は違う音程なのに、それを同じ『ドレミファソラシド』で表すと混乱するので、次のようなルールが設けてあります。

各楽器の『ドレミファソラシド』を表すときは、イタリア語である『ドレミファソラシド』をそのまま用いる。
一方、ピアノの『ドレミファソラシド』(これを「実音」という……やっぱりピアノが基準なんじゃねーかよ)を表すときは、ドイツ語音名『C(ツェー)D(デー)E(エー)F(エフ)G(ゲー)A(アー)H(ハー)C(ツェー)』を用いる。
なんかピアノの『シ』=『H(ハー)』のとこだけ例外である。本来ここは『B(ベー)』であるはずなのになぜか『H(ハー)』だ。そのかわり、さきほどチューニングに使ってた『シ♭』だけ、なぜか『B♭(ベー)』って言う。なぜなのかはわからない。

私はただの経験者であって専門家ではないので、気になる人は調べるなり専門家に尋ねるなどして頂きたい。

この説明で、ピアノの『ド』は実音の『C(ツェー)』だけどトランペットの『ド』は実音でいうと『B♭(ベー)』だ、ということがおわかりいただけただろうか。


で、なんでこれが「絶対音感持ちはつらいよ」に繋がってくるのかを説明したいと思う。

絶対音感持ちピアノ経験者の私は、ピアノの『ド』をポーンと鳴らされたら、それが『ド』=実音の『C(ツェー)』にしか聞こえない。ピアノの『ミ』をポーンと鳴らされたら、それが『ミ』=実音の『E(エー)』にしか聞こえない。
そんな人間が、『ド』が『B♭(ベー)』であるトランペットの世界に放り込まれた。『ド』を吹いたら『シが鳴るのである。まずそれが違和感1。
楽譜は普通にピアノと同じ記譜で書かれているので、『ド』と書かれているところは実音の『シ♭』=『B♭(ベー)』を出さなければならない。『ドミソ』って書かれていたら、頭の中で音を変換して実音の『シ♭レファ』を鳴らさなければならない。これが違和感2。

いや楽譜はドレミで書いてあるんだから、『B♭(ベー)』だとか実音だとか何だとか考えずにトランペットの『ドレミ』をそのまま出せばいいんじゃね?と思うかもしれない。
それができれば苦労はないのだ。
私には、トランペットにとっての『ド』である『B♭(ベー)』の音は何をどうやっても『シ♭』としか聞こえない。絶対音感とピアノ経験が邪魔をして、そうとしか認識できない。
一種の呪いである。in C(イン ツェー)の呪い。

トランペットのときはまだ良かった。確かな音感を駆使して、「トランペット用の楽譜は実音の楽譜から1音下げて読めばいい」という技で乗り切れたからだ。

中・高は惰性でトランペットをやっていたものの、「これ自分に向いてねえな」と思った私は、大学からホルンに転向した。ホルンの雰囲気と音と陰の目立ちたがりポジションが自分に向いていると思ったからだ。
結果、向いていた。トランペットからの転向なので、高音も難なく出せた。

だが最大の障害。

ホルンの『ド』は、まさかの『F』=『ファ』!
楽譜の『ドミソ』は実音の『ファラド』!どうやったら『ド』って書いてある楽譜を『ファ』に変換できるというのか!
4音上げるという高等テクニックは、私にはできねえ。

どう対応したかというと、最初は「ト音記号で書かれている楽譜をヘ音記号の楽譜に変換して1オクターブ下げ、かつトランペット等のin B♭で読む」だったかそういう小難しいことをやっていました。ピアノ経験があるので、ヘ音の楽譜も読めます。

最終的には、楽譜を読むこと自体を諦めました。
最初、ヘ音に変換して音程を掴んだら、それを完全に覚えちゃう。暗譜です。全部暗譜。音を掴んだら、楽譜からはリズムとタイミングと記号(フォルテとかクレッシェンドとかそういうの)以外読まない。
よく考えたらピアノの時から全部暗譜してたし、逆に暗譜できてない曲は自分のものになってなくて弾けなかった。
ピアノでもホルンでも何でも、いきなり楽譜をポイと渡されて「これ演奏して」っていうのは苦手です。暗譜するまでは無理。

ガチで、マウントでも嫌味でもなんでもなく、絶対音感が邪魔になってるなーと思ったものですよ。
しかも周りの人にあんまり理解されない。

大学1年でホルン始めたてのとき、先輩に「ホルンの楽譜がin Fだからぜんぜん読めない、実音でしか音を取れない」と愚痴ったら、「実音わかるの?」と驚かれた。
先輩「B♭(ベー)出して」→私「プー(B♭の音)」、「じゃあH(ハー)は?」→私「プー(Hの音)」、というやりとりを通じて「おお、ほんとだ」と信じてもらったことがあります。
ホルンの運指がトランペットと大体一緒で助かりました。トロンボーン以外の金管楽器には互換性があります。ていうかホルン、適当な運指でもけっこういろんな音が出る。
世界一難しい楽器とか言われてるようですが、私にとっては、キャパシティの広い、懐の深い、優しい(易しいではない)楽器という印象だったな。
人に例えると、いつも煮え切らない態度なので扱いに困る、その上気まぐれで、やる時はめちゃくちゃ本気出す、そういう意味の「難しい」かもしれません。

大学の3年間くらいしかやってなかったので、この話はあまり真に受けないように
でも私はホルンが好きでした。高校からやってればよかった。
私にトランペットは合ってなかった。水の呼吸を使ってたときの炭治郎みたいだった。

 

(おまけ)
私みたいな人のためのやつ:ピアノ経験者で絶対音感持ちが移調楽器の楽譜を読む方法

sunday-conductor.com

同じ悩みを抱える人は他にもいる。