王様ホール

考えたことや感じたことや起こったことを書きます。

S・キング「ミスター・メルセデス」及びS・キングについて

キングが言ってたんですけど、「読書は井戸の手押しポンプを押すのに似ている。最初は抵抗が大きいけど、呼び水をくれてやって何度も何度も押しているとやがて軽くなってどんどん水が出てくる」って。完全にうろ覚えですが、大意はこんな感じでした。
キングが言ったのと似てるんですが、私にとってキングの作品を読むことは、巨大な石の車輪を押すことに喩えられます。最初はとても重くて、少し動かすのにも結構な力が必要なんだけど、一旦勢いがついてしまえば全てを押し潰しながらすごい速さで転がって行き、もう止めることは困難です。押さなくても勝手に転がって行ってしまいます。
※ただし良作に限る。

ていうわけで、はい。S・キング作「ミスター・メルセデス」、だいぶ前に買ってたんですけど、やっとこさ読み終わりました。
今の私の生活においては、「読書」それ自体の優先順位が下がっちゃってます。巨大な石の車輪は常にそこにあったのに、「そのうち押すわ」という態度で過ごしていました。

しかし、読み始めたらあっという間でした。
めちゃくちゃ読みやすかった。

私のキングファン歴は28年です。数えてみてびっくりしました。もうそんな経つんか。
いやまあ途中に2回ほどブランクはあったけど、高校時代にキングの著作を読んで「いいな」と思ってハマってから、もうそんなになります。

「ミスター・メルセデス」は、キングが初めて書いたミステリーらしいです。嘘でしょ。
あとがきを書いた人も「嘘でしょ」って言ってた。「ミザリーとか色々あったっしょ」って言ってた。しかし、純粋に、超常的な要素のない謎解き犯罪ものは初めてなんだそうです。嘘でしょ。

「超常的な要素のない」作品なら、かの有名な「スタンド・バイ・ミー」とか、「刑務所のリタ・ヘイワース(映画「ショーシャンクの空に」原作)」とか、色々あります。
「超常的な要素は入ってるけどそれはさほど重要ではない」作品も、「ドロレス・クレイボーン(映画「黙秘」原作)」、「ジェラルドのゲーム」、「クージョ」、「トム・ゴードンに恋した少女」など、色々あります。いや、これらは「入ってない」に含まれてもいい。

「ミスター・メルセデス」あとがきの人も、おそらく私と同じく、キングがもともと「ホラー作家」にカテゴライズされていたことを忘れています。
だってキング作品、リアルなんだもん。

病的なまでに緻密なディテールの書き込みに裏打ちされて、何を書いてもリアリティがあるんです。「こういう世界なんだな」って何の違和感もなく納得できます。
最早、超常的な要素が入っていようがなかろうが関係ないんです。その世界におけるリアルがきちんと描かれているので。この「きちんと」が、私がキング作品を愛している所以です。「愛している」とか臆面もなく言っちゃったよ。

あ、肝心の「ミスター・メルセデス」の感想、「読みやすかった」しか言ってませんでしたね。
私ときたら、作品単位よりも作家について総合的に考える方が得意なもんでね。音楽だったら、楽曲<アルバム<アーティスト の順でレビューを書きやすいです。

「ミスター・メルセデス」の感想:
退職刑事が、現役時代に逮捕できなかった無差別殺人犯と対決するおはなし。
読者には犯人がわかる仕組み。
ハイテク嫌い・ハイテク恐怖症のキングにしてはめちゃくちゃ頑張って書いたと思う。
犯人がコンピュータ関係に詳しいので、主人公の退職刑事はコンピュータ関係に詳しい若者に教えを乞いながらチャット等で犯人と対話する。
キングの作品って、精神の調和を欠いた人などマイノリティが重要な役割を担うことが多いのだが、本作もこれに漏れなかった。むしろその特徴を活かした活躍が実に痛快だった。笑った。
これ、三部作の一作目らしい。
続編も日本語で出てるのかな。出てたら買わなきゃ。

以上。
私、ネタバレなしで作品レビュー書くの無理みたいです。
いや、「ミスター・メルセデス」は名作でしたよ。そうねえ、私のキングランキングでベスト10にギリギリ入らなくても15位までには入るくらい。
……他にも思い入れのある作品が色々ありすぎた結果です。だってキングって私が生まれる前から作家なんだよ。デビュー作「キャリー」が1974年。

私が一番好きなキング作品は「悪霊の島」です。いい小説を読んでると私の頭の中に音楽が流れるんですが、「悪霊の島」を読んでいるときはずっと低いチェロの音が流れていました。
絵画及びモームの「月と六ペンス」が好きな方には特におすすめです。
でも「悪霊の島」って邦題、もっとどうにかならなかったのかな。これでは初見の人は買わない。

「骨の袋」「不眠症」「ローズ・マダー」のあたりも好きです。キングファンとしてはニッチな好みではないかと思います。
王道の「IT」「ザ・スタンド」「シャイニング」「デッドゾーン」ももちろん好きだし、「ミザリー」なんか私のプライベートメールアドレスに組み込むぐらい好きです。
でも「ダーク・タワー」はそんな好きじゃない。