王様ホール

考えたことや感じたことや起こったことを書きます。

分かち合う

その道の駅には、たまたま休憩で立ち寄った。

建物の裏手では、青緑色がかった川が、切り立った崖の間を曲がりくねってざぶざぶと音を立てていた。

木々の新緑と岩肌の褐色、水の青緑と飛沫の白、遠くに見える橋の赤色と街のモザイク模様。全ての色彩が、私の目に活き活きと飛び込んできた。

思いがけなく出会ったこの眺めを、夫と分かち合いたい。
私は、川が一番よく見える位置にゆったりと陣取った。しかし、夫はなかなか手洗いから戻って来ない。

そのうち、小さな女の子がやって来て、私の後ろでうろうろし始めた。
私は、女の子にも景色を見せてあげようと、夫のための場所を渋々と譲った。

川を見下ろした女の子はぱあっと顔を輝かせ、ぴょんぴょん飛び跳ねながら、
「おとうさーん、おかあさーん、こっち来てー!」
と叫んだ。
女の子もまた、この眺望を大切な人と分かち合いたい、と思ったのだろう。

女の子と私は、並んで川を見ながら、待ち人を待った。


※2022年8月11日追記……これは「旅する日本語2020」エッセイコンテストに「已己巳己」というワードテーマで応募した作品です。普段の文体を封印してエモを意識し、マジで受賞を狙って書きました。今読むと「ざぶざぶと」「うろうろ」「ぴょんぴょん」とか副詞使いすぎだし、力が入り過ぎてて恥ずかしいです。
 結果、見事入賞して旅行券10,000円分もらいました。テーマ「已己巳己」の競争率が低かっただけの可能性ある。