大人になってから初めて「きとびろの天ぷら」を食べた。
親元を離れると、実家に帰るのは盆か正月に限られる。しかし2011年の4月、私は実家にいた。
東日本大震災でインフラに大ダメージを受けた福島県の自宅から、生後5ヶ月の娘を連れて北海道の実家に避難したのだ。
そこで初めて「きとびろの天ぷら」を食べた。
「きとびろ」は、別名を「アイヌねぎ」と言う山菜らしい。叔母が山から採ってきた。
味も「アイヌねぎ」の別名通り、ねぎやニンニクのような風味で、キュキュッとして美味しかった。
またの別名を「行者にんにく」と言うらしい。
……それなら知ってたわー。
アイヌの住んでいた時代からあった食材なのに、なぜ2011年になって私が初めて食べたのかというと、母が昔は好きじゃなかったという理由だった。何かのきっかけで天ぷらを食べたら好きになったらしい。
「きとびろの天ぷら」は、色々なきっかけが重なった結果私の口に偶然入った、奇跡の料理なのだ。
揚げたてを食べるには、春先に北海道にいて誰かが採ってこないといけない。激レアだ。
そして、「行者にんにく」より「きとびろ」の方が美味しそうに聞こえるのは、より産地に根差した感が得られるためだろうか。